クラウド利用が主流になって久しく経ちます。オンプレミスからクラウドへの移行のスピードは、コロナウイルスによるリモートワークによって更に加速しています。長く使っていればいるほど、システムを移行することは簡単ではありません。複数のシステムが共有しているリソースが存在していたり、担当者が入れ替わっていて過去の情報が参照できなかったりと様々な理由が考えられます。そんなときは、管理だけでなく移行もまるごと引き受けてくれる、AWSマネージドサービスを利用すると便利です。本稿ではAWS移行の課題と、AWSマネージドサービスを使った移行の例を紹介します。
クラウドサービスの流行とAWSへの移行
1990年代から2000年代前半にかけて、インターネットやコンピュータ利用など、IT技術に大きな進歩がありました。それから10年以上、ITシステムは社内またはサーバルームに機器を配置してシステム構築する、オンプレミス型が主流でした。2010年頃からクラウドサービスの登場により、オンプレミス環境の構築や運用による課題を解消できることが強みとして徐々に主流化が進み、現在では、オンプレミスとクラウド双方を利用するハイブリッド環境、あるいはすべてクラウドサービスのみを利用する企業も出てきています。
クラウドサービスを利用することによる大きなメリットは、物理的なメンテナンスが不要になる点と、リソースの調整がフレキシブルになる点です。それまで主流であったオンプレミス型のシステムでは、サーバやネットワーク機器などのデバイスと、それらを収容するためのスペースを確保する必要がありました。リソースも物理的に調達する必要があったために運用開始後の変更が難しく、事前の入念な設計が欠かせませんでした。加えて、構成変更や撤去の際にも、作業員の確保や事前の調整事など、大きな負荷がかかることが多くありました。
システムをクラウドに移行することで、これらの物理的な作業をほぼすべて必要とせずにシステムの構築から撤去まで実施することができ、かつリソースの増減も比較的簡単に行うことができます。現在のITシステム利用において、よほど特殊な要件がない限りは、クラウドシステムを利用するほうが得になるケースが多いでしょう。
既存のシステムをクラウドに移行する際には、マネージドサービスを利用して移行することで、プロフェッショナルに段取りを組んでもらえたり、クラウドサービスに特化した考慮事項もアドバイスを得ることができたりとメリットがあります。
AWSマネージドサービスとは?
AWS(Amazon Web Services)はAmazon社が提供するクラウドサービスの総称で、世界で最も普及しているクラウドプラットフォームの1つであり、エンタープライズからスタートアップに至るまで、様々な企業に利用されています。インフラストラクチャのみをサービスとして提供してくれるIaaSから、認証機能やデータベース機能など各種サービスを提供してくれるSaaSに至るまで数多く幅広いサービスが提供されています。
AWSを利用することで、前述したような、これまでオンプレミス環境の利用で発生していた様々な課題を解決することができます。一方で、クラウドプラットフォームであるがゆえに発生する新たな課題や、運用負荷の継続など新たな課題も発生します。そういった課題を解決するために存在するのが、AWSマネージドサービスです。
AWSマネージドサービスは、AWS環境を統合的に管理・運用してくれるサービスのことです。サードパーティベンダによって提供され、当サービスを提供する企業はMSP(Managed Service Provider)と呼ばれます。
マネージドサービスを利用することで得られるメリットの1つは運用・管理の負荷を軽減できることです。予め要件を整理しておけば、基本的にはMSPが運用をしてくれるので、自社のリソースは他の業務に集中させることができます。普段のメンテナンスだけでなく、障害や停電対応、資産管理など様々なコストを削減することができます。
また、セキュリティや信頼性が得られることも特徴です。MSPは、サービスを管理するためのプロセスや手順を持っており、サービスを安定的に稼働させることで信頼性を高めます。また、サービスを運用するために必要なすべてのリソースを保持しているため、サービスが中断されることが少なくなります。また、場合によってはAWS上でのセキュリティ監視を提供している場合もあり、リソース監視と統合して運用することも可能です。オンプレミス環境にセキュリティ監視を導入する場合と比較してより簡単で手軽に導入することができるでしょう。
マネージドサービスを利用したAWS移行
前述の通り、マネージドサービスを利用して移行を進めることで、専門的な知識と技術を持ったエンジニアに自社環境を理解してもらった状態で移行から運用へとつなげることができます。
マネージドサービスを利用してAWS移行を進める場合、どのような手順が想定されるのかを紹介します。
1.計画
まず、移行の前段階として、オンプレミスで稼働している既存環境の棚卸しを行い、移行に必要なリソースや時間、コストを評価するためのプランニングを行います。マネージドサービスを利用していれば、MSPはベストプラクティスをすでに保持しているため、このフェーズはスムーズに進めることができます。
2.データ移行
必要なリソースが計算・用意できたら、次にデータを移行します。データ移行には、多くの場合オンプレミス環境からAWS環境にデータを移行するためのツールが利用されます。データを移行する際には、整合性やセキュリティに配慮する必要があります。
データの移行が完了したら、次にアプリケーションを移行します。アプリケーションの特性によって、単純な移行で住むものや環境の変化に合わせて変更が必要なものが存在する可能性があります。
3.テスト・検証
すべての移行が完了したら、最後にテストと検証を行います。必要なデータが移行できているか、必要な機能が動作しているかをテストします。もし想定通りに動作しない場合には、必要に応じて一度切り戻しを行うか、簡易な修正で済む問題であればその場で解決することもあるでしょう。移行後の環境で正常にサービスを稼働させることができたら、数週間や数ヶ月など予めさだめた期間を経て、オンプレミス環境を撤去します。これによりこれまでかかっていた物理的なスペースや維持コストをリリースすることができます。
上記のような移行や、ハイブリッド環境からの統合を含めてサポートを行っているサービスの一例として、フューチャーイン社が提供しているKeepServerサービスがあります。同サービスでは、クラウドプラットフォームとしてAWSを採用しており、新規構築だけではなく移行やマイグレーションも含めて対応が可能です。同社はAWSの認定パートナーでもあり、複数の資格も保持しているなど信頼性の高いサービスといえるでしょう。同社が提供するマネージドサービスを利用することで、ユーザーはサーバがクラウドにあるのかオンプレミスであるのかを意識することなく、今までと同じ使い心地で利用することができます。クラウドプラットフォームを利用することで得られるメリットに加えて、マネージドサービスによるメリットも合わせて享受することができ、かつ費用も比較的リーズナブルなので、まず検討したいサービスの一つといえます。
移行における注意点
オンプレミス環境からAWS環境に移行する際には気をつけるべき事項があります。マネージドサービスを利用する場合には、これらの事項はMSPによって解消されることも多いですが、あらかじめ把握しておくことでよりスムーズに移行を進めることができるでしょう。
まず気をつけなければならないのは最適なリージョンを選択することです。AWSは世界中に多数のリージョンを持っており、それぞれのリージョンで異なるサービスが提供されています。移行前の計画段階で、データの保管場所や物理的な位置、帯域などから最適なリージョンを選択する必要があります。
次にセキュリティについても考慮する必要があります。移行に伴い、システムの周辺環境が変化するため、これまでオンプレミスでは問題とならなかった箇所がクラウドに移行することで新たに問題として浮上するケースもあります。マネージドサービスも利用しながら、AWS上における最適なアクセス制御を検討し実装する必要があります。
環境が変わることによる互換性の有無についても考慮が必要です。オンプレミス環境とAWS環境では、システムの構成や設定が異なることがあります。移行前に、移行先のAWS環境と既存のオンプレミス環境において互換性があるかどうかを確認しておきましょう。互換性がない場合には、AWS環境でも動作しつつ同一の要件を満たせるような代替手段の検討も必要です。
まとめ
いかがでしたか?今回はマネージドサービスを利用したAWSの移行について紹介しました。オンプレミスで利用している既存環境がある企業は、AWSマネージドサービスの導入と同時にAWSへ移行することで、コスト削減とITシステムの品質改善を実現できる場合が多くあります。まずは一度現状を見直す意味も含めて、環境の洗い出しとコストの計算をしてみることをおすすめします。AWSマネージドサービスを提供するMSPの中には、それらの事前作業も対応してくれる企業もありますので、まずは相談してみるとよいでしょう。
コメント